銀細工職人鈴木

ものをつくるっていうのは、物語をつくってるんです

——まず、お店を開くまでのことを聞きたいです。

15歳の頃から、自分でいつか店を持ちたいなと思っていました。この店を始めるまでには、いくつの職種を経験したけれど、あるとき雇われている会社で「俺ずっとここにいるのかな」って嫌気がさして。その会社をやめたあと、接客が楽しいなぁって感じることがあって、店を持ちたいという夢を思い出したんです。アクセサリーの店にしたのは、当時、大分になかったから。アクセサリーの雑誌を見ていたら「貸工房」って書いてある店が載っていて、その店に電話したら「机貸してあげるからやっていいよ、教えてあげる」と言うので、バイクで東京へ。1か月のカプセルホテル代と貸工房代が必要で、乗って行ったバイクを現金に換えて、そのお金で習いに行きました。

——もしかして、思い切ったら……

……突っ走っちゃうタイプ(笑)。それが22歳のときです。1か月後、大分に戻ってきました。習い始めた日が4月2日だったので、その1年後の4月1日に店を開くっていう目標をつくって。単純に計算すると、ペアリングなら、一度に2個の仕事が入るなって思ったんですよ。だから、付き合いだしたっていう人がいたらすぐ捉まえて「ペアリングつくろうよ」って声をかけていった(笑)。そんな感じで、商売を始めました。

——アクセサリーって、1か月でひと通りつくれるようになるものなんですか?

大分に帰ってきてから3年間は、実際のところ技術がほとんどなかった。それだけで食べていくこともできなくて、2年くらいアルバイトもしていたけど、「いつ来ても店が閉まっているね」と言われるのがいやで、アルバイトをやめました。たしかに食べてはいけなくて生活は苦しかったんだけど、俺も店の雰囲気も、見栄えまでみすぼらしいとお客さんに信用されないから、格好つけるために、たとえばエビアンのペットボトルに水道水を入れて飲んでましたね(笑)。




銀細工職人鈴木




——そういう生活も楽しんじゃえば、楽しそう。

楽しかったですよ。技術的には、まず「お客さんに言われたことを断らない」「自分じゃないといけない理由があることをする」っていうルールを決めたんです。無理を言われたら、それがどうやったらできるか一生懸命やってみて、技術を身につけていくというふうに。「できない」と思うことも、逆に「できたら面白い技術が手に入るな」と考えた。だから、オリジナル商品も販売しているんですけど、いまはオーダーメイドが9割くらい。銀や真鍮のアクセサリーと、革製品を主に。プレゼントの依頼が多いです。1対1でお客さんと向き合うことを大切にしたくて、工房を店の奥に持つのではなく、対面式のカウンターにしています。ここで、どんなものをつくりたいか、実際に絵を描いてみたりしながら打ち合わせできるので、一緒につくりあげていくことができるし、お客さんにもワクワクしてほしい。

——この仕事を「大分になかったから」やろうと思ったって……自信はあったんですか?

まったくないです。店を始めた4月1日は、手元にお金が4000円くらいしかなかったし。

——それでもやろうと思えたんですね。

あと戻りできないんで、「どうにかなるかな」って。あと、楽しくてしょうがなかったから。楽しくて申し訳ないくらい(笑)。やりたいことをやる。やって失敗して後悔すればいいかな、みたいな。不思議と店には人が来てくれてるし。でも、自分のご飯が食べられるだけじゃなくて、社会貢献ができたらなとも思っている。最近は、就労支援施設で革製品づくりを教えるということもしています。




銀細工職人鈴木




——どんなアクセサリーをつくっていきたいですか?

つくるときに大切にしているのは、物語ですね。ものをつくるっていうのは、物語をつくってるんです。買ってくれる人が、ここにあるもののためにお金を稼いだこととか、この店に来る時点ですでに物語があるじゃないですか。それをバカにしたような仕事はできない。オーダーしてくれる人と一緒に、その人が思い描く理想をカタチにしてあげたいし、長く大切にされるものをつくりたい。

——じゃあ、今まででいちばん印象に残っているお客さんは?!

ペアリングをつくったお客さんが、別れたのを俺のせいにしたこと(笑)。俺にそんな力ないのに、もしかしたらそうなのかもって、すごく落ちこんだ(笑)。でもショックだったってことは、自分は毎回思い入れをこめてるんだなと思えました。




銀細工職人鈴木




昭和54年、大分市生まれ。22歳でアクセサリーを手がけはじめ、翌年〈DearStock〉をオープン。もの+物語を提案するので、サプライズの贈り物の依頼も多い。

DearStock
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